「あなた、恋しい、あなた」
この感覚は久しぶりだ。
ごく稀に、ある事なのだけれど。
ここ最近はあまりなかった。
俺が、ササラの夢に紛れ込むという事は。
何人かが同じような、似たような夢を見るという事は、
絶対にない事ではない。
でも俺とササラの場合は、夢が繋がっている事が多いのだ。
大概、ササラの夢に俺が紛れ込んだ時は、
俺とササラがその夢の中で、逢うことで夢は終わる。
だけど今日は何かいつもと違う。
そう感じた。
「………どちらにしても、ササラを探さないと」
この地は、あまりよくない。
うっすらと聞こえる声は、どこか艶めかしい。
ほんの少し力を抜けばふらふらと引き寄せられるような、そんな声。
「ササラ」
「…………」
「いるの?ササラ」
呼びかけても返事はないはずなのに。
何故か、ササラに助けを求められているような気がして。
妖の類でないよう、と願いながら、石畳の道を一歩ずつ進んでいく。
やがて遠くに人影が見えた。
「ササラ?」
「助けて……私の……………せいで…………」
「…………………誰だ」
すすり泣く声と同時に、歌が頭に流れ込んでくる。
「ごめんなさい……………」
「ササラは、どこだ」
「………私の…………私の…………」
「もう一度だけ聞く。ササラがここに来たはずだ。どこにいる?」
女の姿をした何かに再度問いかけると。
ぴくりと一瞬肩を震わせると恐る恐るといった様子で、道のない方向を指さした。
「そうか」
それだけ言うと、紅い月が浮かぶ道の先へと足を向ける。
赤い月明かりに照らされた道。
石畳を踏みしめる感触と、重く纏わりつく空気。
それだけでもう、ここは人の世ではないことが分かった。
だとすれば、なおさら。
「早く、ササラを見つけないと」
道の先がだんだんと暗くなっていく。
それと同時に体が重く沈む感覚に捕らわれた。
膝がガクン、と地に落ちる。
地に着いた片膝を引きずるようにして、ずるずると暗がりを歩いて歩いて。
ようやく見つけたのは、うっすらと白い。
一点の光。
「サ………サラ…………」
僅かに肩が上下に動いてるのを確認してほっと息をついた。
「ササラ………大丈夫か、ササラ」
呼びかけても呼びかけても、返事はない。
いつかの記憶が頭を揺さぶる。
赤い赤い、あの部屋の中、一人座り込んだ少女は、
何度呼びかけても、ぴくりとも動かない。
違う。あの時とは違う。
「ササラ…………」
そうだろう、と呼びかけるように、ササラの名前を紡ぐ。
「ササラ」
恐る恐る、ササラの肩に手を伸ばしたところで、
優しく、切ない白い光に包まれた。