「出来た」
「ありがと」
大してケアもしてないのに、ササラの髪は綺麗だね。
ジュノがそう言って髪を纏めてくれた。
そもそも髪の毛にもあまりこだわりがないから、本当はジュノと同じ形にしたい。
だけど、前にシャンプーが楽そうだって言ったら、ササラの長い髪、綺麗で好きなのに。
と、ジュノがそう言ったから、長さをそろえるだけに留めて長い髪を維持している。
「なに?」
「………………」
ジュノがあまりにもじっとこちらを見ているから居心地が悪くなって、尋ねると。
「…………いや、なんでも」
「なんでも?」
「ああ、そういえば化粧……………そう露骨に嫌な顔するな」
「だって」
「じゃあ、とりあえずこれだけ」
「………本当?」
これだけ、と言ってジュノが取り出したのは、ちょっとした化粧道具で。
じと、とそれを見てから。
「前に………そう言って、結局ごちゃごちゃした」
「あー…………忘れてないんだね、やっぱり」
あの時は、ジュノに乗せられるままもう少しだけもう少しだけと言われ最終的にはあれもこれもときっちり化粧を施されてしまった。
「うん、じゃあこれとこれだけ」
「…………うん」
もったいない、とジュノは言うけれど。
メイク落としを使わないといけないだとか、面倒だと思ってしまう。
ジュノはよく「女の子なんだから」という言葉を使うけど。
その言葉を聞くたび、女の子って面倒だなぁと思う。
「出来た」
「うん」
「………………」
「なぁに?」
「………なんでも、ない」
「そう」
「そろそろ時間だ」
「うん」
「今日は何かな…前は中華だったから、フレンチかな。ササラ、苦手かも」
「ふれんち」
「うーん…ごちゃごちゃ、かな。いろんな味が混ざっているかな。高級料理だけど」
ごちゃごちゃの料理好きじゃないなぁと言ったら、俺もあんまり、とジュノが笑った。
窓から差し込む夕日が眩しくて、二、三回瞬きをするとビルだらけの景色の中で、真っ黒い雲が渦巻いていた。